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第9回 理事 白川 方明

決定の重要性

近年、日本経済の将来に対する閉塞感とも言うべき気分が社会に広まっている。その最も根源的な原因は、第1は少子化に伴う人口減少であり、第2はグローバル化やデジタル技術の発達というメガトレンドと日本の社会や雇用慣行との「相性」の悪さだと思う。いずれも短期的には変えられない要因である。さらに、何らかの解決策を実行しようとしても、立場の違いからくる意見の隔たりが大きいため、明確な方向感が打ち出されない。そうしたことを実感するが故に、閉塞感が生まれている。

しかし、経済は決して自然現象ではなく、人間の営む行為の結果である以上、20年、30年というタイムスパンで考えると、私は人間の意思によって日本経済の軌道は最終的に変わりうると信じている。正にフランスの哲学者アランが言うように、悲観主義とは気分の問題であり、楽観主義とは意思の問題である。こうした閉塞感とは別に、「豊かさを追求する時代は終った」とする精神主義とも表現すべき気分も存在し、折に触れてそうした論評も目にする。しかし、私にはこうした論評は子供や孫の世代への想像を欠いた無意識的な利己主義ないし貴族主義のように感じられる。現状を放置すると、一人当たりのGDPも減少し、精神的豊かさも手に入れることが難しくなる。

我々は閉塞感からも精神主義からも脱して厳しい現実を直視し、少なくとも一人当たり所得の成長率が低下しないという意味で、持続可能な経済を作る必要がある。そのためには、先行きに関する冷静な見通しに立った上で、必要な決定を下さなければならない。決定が真に実効性のあるものになるためには、社会や組織の構成員の理解、合意が必要だが、そうした決定に至るためにはリーダーの旗振りが不可欠である。どのような社会でもどのような企業でも、リーダーの最大の責任は決定を下すことである。

ビジネス・スクールの大きな役割は企業のリーダー、経営者を育てることである。経営者にはファイナンスやマーケティングをはじめとする技術的知識、経済や社会の将来に対する大局観、インテグリティという言葉に代表される求められる徳性が求められる。閉塞感の根強い現状を見るにつけ、日本のビジネス・スクールの果たすべき役割は大きいと感じる。それだけに、日本のビジネス・スクールの活動を支援する「経営人財育成推進機構」の仕事の意義も大きいことを理事のひとりとして強く感じている。

理事  白川 方明
青山学院大学 特別招聘教授